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Artist

SUPER BITON DE SEGOU

Title

AFRO JAZZ DU MALI


biton afro jazz
Japanese Title

アフロ・ジャズ

Date 1986
Label BOLIVANA 42013-2(FR) /オルター・ポップAFPCD-211(JP)
CD Release 1991
Rating ★★★★★
Availability


Review

 このグループの演奏をはじめて耳にしたとき、ずいぶん泥くさい音だなあと思った。すぐに好きにはなったのだけれども、サリフ・ケイタユッスー・ンドゥールを聴いて、アフリカン・ポップスの世界にはじめて飛び込んだ身には、野卑というか豪快に聞こえたものである。
 ところが、馴れとはコワイもので、ガーナやナイジェリアのハイライフ、60〜70年代のギニアのポップスなどを通過した今日の耳には、なんとも都会的で洗練されたサウンドに感じられたことか。

 なかでも鍵を握るのがギターだ。バラフォンのようにコロコロと転がりつづける心地よいリフはいかにもアフリカ的だが、ソロでのクールにしてブルージーなフレージングはロックっぽい。また、ハチロク(8分の6拍子)を叩き出す超絶技巧のドラミングもメリハリがあって切れ味抜群。文句なしにかっこいい。そして、なによりもキーボードやシンセサイザーが入っているところが新しいではないか(ただし、この試み、必ずしも成功しているとはいいがたいが‥‥)。楽曲構成の面でも、導入部から主題部へのドラマチックな展開や、間奏部での楽器の入り方など、かなり綿密に練り込まれた痕跡がうかがえる。

 しかし、3人のヴォーカリストの吐き捨てるようなワイルドな歌いっぷりは、サリフのようなどこか近づきがたい威厳は微塵も感じられず、たとえていえば、慎みを忘れて詩吟をガナリつづける近所のオッサンのようなたたずまいだ。そして、囃したてるような不協和音がかまびすしいホーン・セクション。過度な装飾をそぎ落としたサックス・ソロのハード・エッジな切り口も悪くない。
 「美は乱調にあり」とはよくいったもので、乱雑でいい加減では困るが、かといって万事パーフェクトではおもしろみを欠いてしまう。洗練と野卑、柔と剛、これら相反する要素がときに融合し、ときに反発しながら、シュペール・ビトンという個性をかたち作っている。優美さを切り裂く野蛮な闖入者の存在が美を高めていく。

 マリといえば、まずサリフ・ケイタの名まえが挙げられるが、じつは、サリフはマリにおいては少数派にあたるマリンケの出身。これにたいして、シュペール・ビトン・ドゥ・セグーは多数派を構成するバンバラのバンド。かれらは、オーケストル・レジュオナル・ドゥ・セグーと名のっていた64年から、マリ政府が主催する音楽ビエンナーレでつねに上位入賞してきた実力派であった。そして、70年にはついに第1位を獲得。当時の演奏は、多くのアフリカのポピュラー音楽がそうであったように、ラテン音楽の影響を色濃く残していた。その後も連続して1位を獲りつづけ、76年には国営バンドとなった。シュペール・ビトンを名のるようになったのは、このころだろうか。70年代も後半になると、ラテン的要素は後退し、ここで聴かれるようなバンバラの伝統を大幅に取り入れた曲調になってくる。

 本盤は、86年にヨーロッパ・ツアーに出かけたさいに、パリで録音したアルバムに未発表3曲を追加したCD。バンバラのリズムをモダナイズしたエネルギッシュなサウンドは、全9曲いずれも名演と呼ぶにふさわしい充実した内容。長いあいだ、かれらの演奏が聴けるCDはこの1枚きりだったが、1999年に、70年代後半から80年代にかけての2枚のアルバムからの復刻と思われる"BELLE EPOQUE"(SONO AFRICA CDS7072)がCDリリースされた。本盤に比べると、相当泥くさい演奏で、ギニアン・ポップからラテン・フレイヴァーを抜いて、スーダン・カラーでベタベタに染め抜いた感じ。そう、われわれ日本人にはなじみのある民謡調のラドレミソの5音音階の、アリ・ハッサン・クバーンやアブドル・アジーズ・エル・ムバラークのイナたーいムードを想像されたい。バンバラ直系の豪快さとチープさを求めるなら、むしろこちらのほうがオススメかも。

 グループは、80年代末に解散したが、ソロ・アルバムとして、ヴォーカルのママドゥ・ドゥンビアは"KELEA DIOUGO"(CAMARA CD 01, 1995)、ギターのママドゥ・シソッコは"AMOURS-DIARABI"(BUDA/BLEU CARAIBES 829402, 1997)"SOLEIL DE MINUIT"(BUDA829902, 2000)を発表している。残念ながら3枚とも持っていないので無責任なことはいえないのだけれども、シソッコのほうはサンプルをダウンロードして聴いたかぎりでは、かなりラテン音楽色のつよい渋めのサウンド。悪くないとは思う。


(5.18.02)



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by Tatsushi Tsukahara